富山市浜黒崎の農業生産法人代表、若木重昭さん(56)が今秋、世界2位のコメ輸出国ベトナムでコメの無農薬栽培の指導を始める。同国では無農薬の取り組みはほとんど行われていないといい、現地では「安心・安全で高品質の日本式栽培はブランド力強化につながる」と期待が高まっている。
ベトナムはタイに次ぐ世界2位のコメ輸出国だが、タイ米の小売り価格が1キロ300円程度に対し、ベトナム米は同200円程度と評価は高くない。今年4月、若木さんが同1000円の高値でフランスにコメを輸出していると知った同国南部の農家から「技術を教えてほしい」と申し出を受け、実験栽培が決まった。
計画では、同国南部テンジャンで11月、0・3ヘクタールの水田を使って試験栽培をスタートする。現地で一般的なじかまきは稲と雑草の発芽時期が重なり、除草剤を使わざるを得なくなるとして、苗を育てて田に植える。
水田にはコイを放ち、水をかくはんして雑草を生えにくくする。それでも生える雑草は、ホームセンターで購入できる鳥飛来防止用の突起付きマットを人力で引いて取り除く。来年2月の収穫状況が良好なら、翌3月にも作付面積を一挙に25ヘクタールまで拡大する方針だ。
大阪で不動産業などを営んでいた若木さんは、家族が体調を崩したのを機に出身地の富山市に戻り、1997年から無農薬農業を始めた。現在は、米ぬかや鶏ふんを水田にまいて酸欠状態を作り、雑草を生やさない手法で約2ヘクタールの稲作に取り組む。2009年からは仲間の農家とあわせて年間30トンのコメをフランスに輸出している。
自然に囲まれた生活で家族の健康を取り戻した若木さんは「健康にも環境にも国境はない」と、無農薬農法の海外普及を決意。高温多湿で年3回の稲作が可能なのに栽培法や乾燥技術が不十分で国際市場での評価が低いベトナムにねらいを定め、8年前から通い詰めていた。
7月にはコメの無農薬栽培を研究する県立中央農業高校(富山市東福沢)と合同で現地を視察し、突起付きマットを利用した除草器具の使用法も伝えた。
現地での意思疎通には、2年前に長男と結婚したベトナム出身のド・チツ・チャンさん(25)が一役買う。「日本みたいなおいしいコメができたらいい」とチャンさん。若木さんは「日本式に作ったコメが高く売れれば、環境に優しい農業がベトナムにも定着する」と期待している。
(2010年8月23日 読売新聞)