6月29日14時15分配信 毎日新聞
アニメの殿堂って必要?--とも批判される国の「メディア芸術総合センター」(仮称)。海外で高い評価を受けるアニメやゲームの発信力を高める狙いだが、アニメ産業の空洞化が進み、日本アニメの土台はぐらつく。話題のセンターは、危機を救えるのか。【佐々木宏之】
「昨年から受注作品数も制作費も減った。30分のテレビ1話を約1800万円で請け負っていたが、今は1300万円程度」。そう漏らすのはアニメ制作会社「ゴンゾ」(東京都練馬区)の鷹木純一プロデューサー(35)。中小零細が多くを占める業界の苦境を肌で感じている。
絵の細密化で手描きの手間が増えたのに、人件費はそのまま。鷹木さんは「体力のない会社は去年からどんどんつぶれています」と証言する。制作担当の佐野真司さん(30)は言う。「センターを作るお金があれば、アニメ業界の再編に使い国家産業として育ててほしい」
05~06年をピークに日本アニメの市場規模は減少に転じた。DVD販売の落ち込み、インターネット動画配信の発達などが背景にある。
「遊びに使う金はゼロ。彼女ができても結婚なんてできるかな」。24歳の男性アニメーターは眠い目をこする。業界に入って1年、平均月給7万円だ。
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の調査では、20代アニメーターの平均年収は約110万円。離職率は8~9割とも言われる。アジア各国への業務委託に加え、技量の高い若手が育たない「空洞化」が進む。
この苦境、メディア芸術総合センターは目をつぶるのだろうか。
「中小の制作現場は助成を必要としている」と言うのは津堅(つがた)信之・京都精華大准教授(40)=アニメーション史。センターの意義も認めるが、資料集めは「国でなくてもできる」と批判的だ。「何の役にも立たない」と切り捨てるのは、「機動戦士ガンダム」などのヒット作を手がけたアニメーターで漫画家の安彦良和さん(61)。「アニメは“雑草”のたくましさで育ってきた。放っておいてほしい。国の助成には、表現を規制される懸念もある」と話す。
有効活用を願う意見もある。JAniCAは23日、「センターをアニメ人材育成の拠点に」と自民党に提言した。たとえ批判でも、アニメに注目が集まっているのを好機ととらえた。桶田大介監査理事(33)は「選抜した若手を(センターの)常設スタジオで指導する。観光客が生の制作工程を見られるようにしてもいい」と提言する。
センターはアニメの資料収集・展示や調査研究を担う、と文化庁報告書は定めるが具体的な中身は白紙だ。今後を審議する検討会メンバーでゲームクリエーターの石原恒和さん(51)は「予算規模は117億円。テーマパークのアトラクション1個程度なのだから、多くは欲張れない」と懐疑的だ。
人材育成に業界再編……。課題は山積だがいずれにせよ、「単なる箱物にしないでほしい」との思いは現場に強い。「あと5~10年で、次世代育成が不可能になる」とJAniCAの桶田さん。残された時間はわずかで、危機感は切実だ。