人生は回り道していい

獣医師を20年以上続けていると、たまに獣医学生から相談を受ける。最近もある女子学生から「休学して実家に戻っている」と打ち明けられた。高校時代に私の本を読んで入学したけれど、獣医学部になじめないというのだ。

 獣医師になるには6年間大学で勉強して卒業し、国家試験に合格しないといけない。獣医学部のある大学は全国でも少なく、自宅を離れて一人暮らしをするケースが多い。

 大阪出身の私も、北海道の大学に入学して、一人暮らしを始めた。4月になっても冬のように寒く、ホームシックにかかった。毎日、実家に電話しては泣いたものだ。

 講義も実習も難しい上、いままで親にやってもらっていた洗濯や掃除などの家事も、すべて自分でこなさなければならない。まあ、こういう性格なので、2年生にもなれば親の干渉がない自由な学生生活を満喫していたけれど、すべての人がそうとも限らない。

 だから、一度入学して獣医師をあきらめても、「それはそれでよし」とした方が、いいように思う。獣医師はやりがいのある仕事だが、固執することはない。他にもいくらでも道はあるのだから。学生から相談を受ける度に「雑草のようにたくましく生きてみたら」と提案する。

 相談を受けていた女子学生から先日、「編入試験に合格しました」と明るい声で報告があった。獣医師の道はやめ、今度は心理学の勉強を始めるという。ちょっと回り道をしたかもしれないけど、40歳を過ぎた私から見れば、大きな問題ではない。心理学に新たな道を探る彼女に、心からのエールを送りたい。(獣医師・石井万寿美)

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