遅い復旧 高齢者ため息

1年前は青々とした稲が育っていた田んぼには、雑草が生い茂り、豪雨の激流に運ばれた石や木の根などがあちこちに転がったままだ。一部の地面が水流でえぐられて約50センチもの段差ができ、農業用水路の土管はそこで折れて、真夏の日差しに乾き切っていた。

 「一面、こんな状態。何とかしようにも、どこから手を着けたらいいのか……」。佐用町の庵営農組合で農会長を務める奥林覚さん(66)は、荒れ放題の田畑を見渡して肩を落とした。

 昨夏、町を襲った豪雨は、基幹産業の農業も容赦なく痛めつけた。町農林振興課によると、農地1260ヘクタールのうち560ヘクタールが被災し、用水路など関連施設も含めた被害総額は31億7000万円に上る。同営農組合加盟の30戸が13ヘクタールを耕作する庵地区は、庵川の氾濫(はんらん)で8割の農地が泥につかり、町内最大の約5000万円の被害が出た。

 ところが、農地復興の取り組みはスローモーだ。2011年度末までに、国の農地災害復旧事業で416件、町単独か補助事業で約950件を行うことにしているが、6月末時点での進捗(しんちょく)率は国事業で4割、町の事業は3割にとどまる。川幅を広げたり堤防をかさ上げしたりする河川改良工事が優先されるため、農地復旧はさらに遅れることもある。

 この間、農家は作付けができないが、町から農家への所得補償はないという。また、庵地区では2000年に農地や用水路を改良した基盤整備事業の費用償還が16年まで残っており、土地の売却も難しい。

 組合員の多くが60~70歳代で、兼業か年金生活のかたわら農業を営み、水稲や黒大豆などを生産してきた。奥林さんは「流木や砂利の撤去は高齢の農家の手には負えない。復旧が1年遅れるだけでも農家には大きな負担。一刻も早い復旧を願っている」と話す。

 しかし、町側は「農家への所得補償は、他の自治体にもそんな制度がなく、町の財政面からも無理。国や町の事業で農地の復旧を待ってもらうしかない」と、にべもない。

 JA兵庫西は「復旧に時間がかかれば、高齢者は再開する意欲を失ってしまう恐れがある。年金があるので、すぐに生活に困ることはないだろうが、収入は2、3割ダウンするだろう」と、町の農業の衰退を懸念する。

(今岡竜弥)

(2010年8月5日 読売新聞)

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