神奈川のひと:相模川に花咲かす、川又猛さん /神奈川

11月16日12時1分配信 毎日新聞

 ◇カワラノギク守り18年 希少植物の復元に尽力--川又猛さん(82)
 相模川の花咲かじいさん――。敬いと親しみを込めて、いつしかこう呼ばれるようになった。環境省レッドデータブックで絶滅危惧(きぐ)種に指定のカワラノギク。相模川中流域でわずかに残る希少植物の保全に、後半生の限りを注ぎ込んだ。
 栃木県茂木町の那珂川近くで生まれ育った。64年から海老名市に住み、那珂川と似た流れの相模川にひかれた。県植物誌調査会委員を務めていた90年春、顧問の故内田藤吉さんと2人でカワラノギクの分布調査を始めた。
 当時は文献もなく、1枚の写真を手掛かりに、ルーペを手に河原で苗を探し歩いた。91年11月、厚木市猿ケ島で薄紫色の花を咲かせた35茎を見つけた。相模川では旧城山町から座間、海老名市にかけて数カ所、愛川町の中津川でも自生を確認した。どこも繁殖が危ぶまれた。「私が守ってあげる」と誓った。
 丸石だらけのゴータ河原、砂地や砂れき地とさまざまな形質に種をまき、栽培試験を繰り返した。繁殖適地は地下水位の高い丸石河原と分かった。春から秋に毎日、草取りがてらに生育状況を観察。カワラノギクを雑草と思って引き抜いた釣り人を注意して殴られたこともあった。
 97年にたった一人で「カワラノギクを守る会」を発足させた。県内広域水道企業団の取水堰(ぜき)・相模大堰の河原に畑を設け、栽培方法にめどをつけた。周辺の小中学校に保護活動を呼び掛け、5校が協力して栽培に取り組んだ。
 厚木市立相川中の生徒たちは、薄紫色の花が咲き誇る花畑を作りあげた。唯一の自生地、相模原市城山町小倉の河川敷で01年から栽培を始めた市立湘南小の子供たちは、洪水で多くの苗が流失しても自ら種を取って育てる活動を続けている。
 夏の暑い盛り、子供たちと一緒に草むしりをする。子供たちにとってカワラノギクは古里の誇り。昔ながらの自然豊かな河原植生を取り戻す子供たちに「ありがとう」と目頭を押さえる。献身的な努力で復元の輪が大きく広がった。【高橋和夫、写真も】

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