11月16日11時42分配信 中日新聞
【岐阜県】今年も富有柿のシーズンがやってきた。と感じるのは、本巣市や瑞穂市などを担当する記者は、たびたび柿の取材をするからだ。気候も似ているはずのそれ以外の周辺市町では、栽培がそこまで盛んではなさそう。さくさくとした甘い実をかじりながら「一極集中」のヒミツを探った。 (横山大輔)
富有柿は甘柿の代表品種として知られ、大ぶりな実と赤みが特徴。県内は、生産量では福岡、奈良両県と並ぶ一大産地。うち8割程度が本巣、瑞穂両市を流れる根尾川の周辺や岐阜市の北西部に集まっている。
「富有柿の発祥は瑞穂市居倉(いくら)です」。本巣市の栽培指導施設富有柿センターの地域営農マネジャー後藤弘さんは説明する。居倉で育てられていた甘柿「御所柿」から明治時代に、地元の文化人福嶌才治が大ぶりな実がなる枝を見つけ、品評会などを通じて評判になった。品種の起こりは「突然変異」。いまも居倉に原木由来とされる木が育っている。
才治は1898(明治31)年、中国の古典「礼記」の素質に優れたものは自然に天下に広まるとうたった一節から「富有」の文字を選び、名付けたという。「今では韓国やニュージーランドでも栽培されています」と後藤さん。才治の願い通り、「柿の中の柿」に育った。
甘柿ゆえのデリケートさもある。春から秋にかけての平均気温が低いと渋みが入る。本巣市でも、北部山間地の根尾地区では甘柿にならないそうだ。
富有柿の中でも、同市糸貫地区から出荷される「糸貫の柿」は一時、全国を席巻したブランド。JAぎふ本巣北部センターの井奈波正彦さんは「根尾川で運ばれた土質、そして水がいい」と話す。後藤さんも「水はけが良く肥えた土は柿に向いている」。突然変異を生んだ一帯が、そのまま栽培にも適していたわけだ。
糸貫地区では、ブランド力を守ろうと手間を掛ける。つぼみの時期から1本の枝に多くの実をつけないように管理し、大きな実を育てる。草で覆われ、ふかふかとしている柿畑の地面も工夫の1つ。
素人からすれば「雑草が生えていると作業もしにくいし、栄養もとられちゃうんじゃないの」と思うが、「雑草が倒れて肥料になる。そして地中の虫が育ち、土を耕してくれる」。生産農家の加藤泰一さんは説明する。
木々の間隔を広くして、日当たりや風通しまで注意を払うという徹底ぶりが、糸貫だけでなく周辺にも広がっている。
なるほど、自然の恵みをたっぷりと含んだ県内の富有柿。柿は古来、健康にもいいと知られるが、難病に効果がある物質も含まれているとの研究も進められているという。でも、食べ過ぎには気を付けなくっちゃ。