1月11日22時49分配信 産経新聞
「ご飯がおいしい店」として人気がある大阪府堺市堺区の定食屋「銀シャリ屋 げこ亭」の主人、村嶋孟(つとむ)さん(78)が、これまで「一代限り」として自分の息子たちにも教えてこなかったコメ炊きの技を伝承することを決め“後継者探し”をしている。村嶋さんのコメ炊きは大手電機メーカーの炊飯器の開発担当者や、東京・築地のすし店主がアドバイスを求めに来るほどの評判の技。「自分なりに追及してきた味を伝えることができたら」と話している。
げこ亭は昭和38年、村嶋さんが32歳のときに創業した。戦時中に、雑草を食べざるをえないほどの食糧難を体験し「みんなにうまいご飯を食べさせたい」とコメのおいしさに徹底的にこだわった経営をしてきた。
他の飲食店に比べ、ご飯を短時間で炊くのが特徴で、火力の強いガス火で一気に炊きあげる。この火加減に加え、大きなひしゃくを使ってかまの中の微妙な水加減をするのが長年培われた技で、村嶋さんは「コメは水が命」と話す。
炊きあげたご飯は、ふっくらとして弾力のあるおいしさ。「ぶりの照り焼き」や「卵焼き」といったおかずとともに、ご飯のおいしさが口コミで広がり、お昼どきには行列ができ、昼過ぎには売り切れになってしまう日も多いという。
長男の隆さん(51)と二男の忠良さん(47)も料理人としてともに働いているが、それぞれ魚や肉などのおかずの調理を担当しているため「コメににおいが移る」とコメ炊きを教えないほど、村嶋さんは徹底的にご飯の味にこだわってきた。
毎朝4時に起床して仕込みを始める村嶋さんだが、年々体力の低下も感じているという。これまで周囲から問われると「コメ炊きの技術は一代限り。教えるほどのものではない」と話していたが、常連客から「何とかその技を残してほしい」と繰り返し頼まれるうちに「技の伝承」を考えるようになった。
店内には「50年の味、伝授します」と張り紙を出した。村嶋さんは「技術を真摯(しんし)に学ぶ意欲がある人に教えたい」と話している。