中学校で作物などの生物の育成を学ぶ授業が必修化される。
校庭の隅にずらりと並んだ土入りの米袋。畑代わりのこの袋に、3年生約30人がそれぞれダイコンやカブの種をまいていた。9月15日、大阪府大東市立諸福(もろふく)中学校で行われた技術・家庭科「作物の栽培」の授業だ。
授業では、種をまいてから収穫までを学ぶ。肥料を与えた作物と、与えない作物とを比較して育て、人が手を加えることで作物が良く育つことを学んだりもする。この日、生徒らは種をまいた後、作業の説明や感想をプリントに書き込んだ。
木村直哉君(15)は、1学期にはトウモロコシ作りに取り組んだ。「作物がどうやって育つか知らなかった。自分で作って食べたものはおいしい」と笑顔で話す。
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「栽培」は、現在は技術・家庭科の選択授業だが、2012年度から施行される新学習指導要領で、「生物育成に関する技術」と名前を変えて必修化されることになっている。選択だと取り組む学校が少ないこと、05年に行われた国の意識調査で、「栽培」に対する生徒の意欲が必修科目に比べて低かったことなどが背景にある。
「今の子どもたちは生まれた時から野菜は買ってくるという発想で、育成過程がブラックボックス化している。体験を通して、そこに込められた技術や苦労を知ることが必要」と文部科学省の担当者は話す。
作物は、農薬や肥料、バイオテクノロジーなどの技術を使い、計画的に育てられる。そうした技術を子どもたちが知り、興味を持てば、新たな担い手育成につながる。一方で、技術には環境破壊などの負の側面もあり、生産者、消費者とも理解を深めることは必須と言える。
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無農薬は1個300円、通常栽培は1個30円――。ジャガイモの栽培を通じ、技術について考える授業を行ったのは、北海道立教育研究所研究研修主事の大西有さん(43)だ。
大西さんは、昨年度まで勤めた北海道教育大学付属旭川中学校で、生徒一人一人に通常栽培と無農薬の二通りでジャガイモを育てさせた。無農薬にすると、雑草が生え、休み時間にも草取りが必要で手間暇がかかる。かかった材料費や人件費などを金額に換算したら、通常に比べて無農薬は約10倍の価格になった。
「本当に安全な作物を栽培するのはかなり大変」「農薬に頼らなくてもたくさん収穫できる技術を開発する必要がある」。生徒たちは野菜が安く手に入るのは、技術のおかげだということを実感したという。
「農薬も一概に悪いとばかり言えないし、使いすぎてもいけない。『健康』と『経済性』という二律背反の中で、最適な答えを求める考え方を中学校で身に着けることは意義がある」と大西さんは話す。
育てる技術を使いこなすにも、まずは学ぶことが第一歩だ。(名倉透浩)
生物育成に関する技術 技術・家庭科の選択「作物の栽培」が名前を変えて必修化される。従来は作物の栽培だったが、対象は魚や動物などの生物一般にまで拡大。そうした生物の育成体験を通じて、基本的な知識や技術の習得、技術を評価し活用する能力を養うことを狙いとする。
(2009年10月1日 読売新聞)