薄れる記憶 早く情報を

倉敷市児島上の町で1995年4月、農業角南春彦さん(当時70歳)、翠さん(同66歳)夫婦が刺殺され、自宅が放火された殺人放火事件の時効成立が、あと3か月に迫った。犯人逮捕に結びつく物証がない中、時間の経過で寄せられる情報も減少しており、児島署の捜査本部(本部長=石田孝吉・刑事部長)は27日、「何としても手がかりをつかみたい」と、JR児島駅前などで情報提供を呼びかけた。(西蔭義明)

 事件は、同年4月28日未明に起きた火災によって発覚。角南さん方の木造2階建て住宅は全焼し、焼け跡から、胸などを刺され、頭部がない2人の遺体が発見された。犯人は2人を殺害した後、灯油をまき、火をつけたとみられている。

 捜査本部は残忍な犯行態様から、強い恨みが原因とみて捜査を進めてきた。しかし、夫婦2人で暮らしていたため、どのような生活をしていたかが詳しく分からず、動機は絞りきれていない。さらに、住宅の焼失などによって、容疑者につながる証拠が得られなかったことが、解決を一層難しくした。

 この間、投入された捜査員は延べ約8万9000人。捜査本部は昨年、捜査員を5人増員して16人態勢とし、見落としているものがないか、現場付近の聞き込みを続け、捜査記録を見直すなどしている。情報提供も計226件あったが、昨年は5件のみだった。27日は、捜査員らがJR児島駅やスーパーなどに立ち、通行人に情報提供を改めて求めるため、チラシ1000枚を配った。

 現場近くに住む女性(75)は「そんなにたったんですね。時効なんて信じられない」とため息交じりに話す。近所の人によると、角南さん夫婦が住んでいた住宅の跡地などは、時折、遺族が訪れて手入れをしているという。それでも樹木や雑草は生い茂り、時間の経過を物語っている。

 三村淳・児島署長は「夫婦や遺族の無念を何とか晴らしたい。ささいなことでも情報を寄せてほしい」と話している。

(2010年1月28日 読売新聞)

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