懸命の集客作戦

中部国際空港の開港をきっかけに大規模開発をもくろんだ地元・愛知県常滑市の計画は、予定通りに進んでいない。

 空港対岸部の広大な前島(123ヘクタール)は、企業進出の起爆剤と期待されたショッピングセンターのイオンモールの進出が消費低迷を理由に大幅に遅れ、一面に雑草が生い茂っている。

 前島にホテルを建設した不動産会社社長の坂田勇さん(60)は一部を介護施設に切り替えた。「すべてはイオン待ち」と渋い顔だ。

 空港の商業施設では、恐竜の模型や化石、実験器具を販売する教育雑貨店が注目を集め、県外から学校関係者が訪れるほどだったが、21日限りで閉店する。「全国の人に店を知ってもらったが、この不況では」と後藤健太郎支店長(29)は残念そうだ。

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 開港前、常滑市は空港関連の税収を年間70億円と見込んで市債などを発行し、公共下水道やニュータウン開発にこれまで約290億円をつぎ込んだ。しかし、実際の税収は40億円と目算が外れ、人口5万5000人の市に借金返済が重くのしかかる。

 三重県伊勢市では、中部空港と同市の宇治山田港を結ぶ水上高速船路線の計画が中止になった。昨年11月の市長選で、計画が争点の一つとなり、採算が見込めないなどと主張する反対派の鈴木健一・新市長(34)が当選したためだ。

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 空港会社では、落ち込む業績を回復させようと、様々な手立てを講じている。ターミナルビルで行っている四国八十八か所霊場巡りのお砂踏みに1万人、常滑市を会場に計画するアイアンマンレースに国内外の選手ら5000人―とイベントの集客目標を立て、収益アップにつなげようと躍起だ。

 空港に乗り入れる航空会社への支援も惜しまない。ベトナム、タイ航空が東北、北海道方面から中部空港経由で東南アジアへ向かう乗客を増やそうとしているのをサポートし、旅行代理店回りを一緒にしたりしている。ベトナム航空名古屋支店の森田順悟さん(45)は「こんな協力態勢は、他空港にはない」と驚く。

 地場産業・常滑焼の若手陶芸家も動き出した。リーダー格の冨本タケルさん(39)は「これからはアジアの時代。みずから動いて突破口を見つけたい」と今月10日、春節に合わせて台湾のデパートで開く展覧会に仲間ら7人と出発した。常滑焼を通して常滑市を知ってもらい、中部空港を活用し、海外から観光客を呼び込もうとの狙いもある。

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 中部空港の構想から携わってきた岐阜大学の竹内伝史教授(交通政策)は「空港建設のような巨大事業で黒字になるのは通常、5~10年後。中部は建設費を大幅に抑えるなどして、初年度から黒字になり、大きく見れば順調だ」と5年間を分析する。その上で「中部圏発展のため、成田、関西空港に逃げているこの地区の貨物や旅客の需要を取り戻し、2本目滑走路建設につなげるべきだ」と指摘する。

 一方、名古屋市立大の山田明教授(財政学)は「愛知万博に間に合うよう建設を急いだため、ここへ来て、需要減や前島問題などが噴出した。第2滑走路も現段階では考えにくい。空港は日本の真ん中にあり、内外の観光客を集めるなど地道に活性策を積み重ねることが大切だ」と話す。

 離陸から明日で5年。安定飛行に向けた試行錯誤は続く。

(2010年2月16日 読売新聞)

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