◆スピードスケート(26日・五輪オーバル) 「トラ・トラ・トラ」で金メダルだ。団体追い抜き(パシュート)1回戦で、W杯ランク3位の日本女子は同6位の韓国に圧勝。28日の準決勝で同9位のポーランドを下せば、続く決勝進出と銀メダル以上が確定する。穂積雅子(23)、田畑真紀(35)=ともにダイチ=、小平奈緒(23)=相沢病院=の「寅(とら)年生まれの年女トリオ」に、橋本聖子団長は「死ぬ気で戦え」とゲキを飛ばした。男子は米国に敗れ、7、8位決定戦に回った。
穂積、田畑、小平の3人は、ラスト50メートルを流す余裕だった。それでも韓国に4秒56もの差をつける圧勝。穂積は「最後は脚を使わずゴールできた」と笑顔を見せた。
寄せ集めだったトリノ五輪時と違い、綿密に戦略を練ってきた。担当の羽田雅樹コーチ(48)と結城匡啓コーチ(44)は、短距離の小平、中距離の田畑、長距離の穂積の特性を所属の垣根を越えて生かすことを検討。昨夏から3人を中心に練習し、滑走順などを決めてきた。五輪直前に15歳の高木という新戦力も加わったが、個人種目の不振で“スタメン”落ち。馬力と持久力のある穂積を最初の半周、中盤、ラスト1周半を先頭で引っ張る役回りに起用し、スピードの小平を挟んで五輪4回の経験値を持つ田畑を司令塔に配置して最強布陣が完成した。田畑だけ一回り年上だが3人とも寅年生まれで、小平は「みんなのフィーリングが合うし、同じ空気を感じている」と話す。
今大会、穂積は3000メートル6位、5000メートル7位とW入賞。小平は1000メートル、1500メートルでともに5位に入った。田畑は1500メートル19位ながらトリノ五輪のこの種目4位の雪辱に燃える。
準決勝で勝てば銀メダル以上が確定する。追い風も吹いた。W杯ランク1位の地元カナダや2位のロシアが敗退。4強では日本が最上位ランクとなった。観戦した橋本団長は「(選手に)前に死ぬ気で頑張れと言ったんですが、死ぬ気で試合して死んだ人はいない」と過激なハッパをかけた。
トリノ五輪は準決勝で転倒し、メダルを逃した。「トリノでなくした物をみんな拾いたいと思っている」と羽田コーチ。金メダルならこの競技の日本女子初となり、日本勢通算10個目。トラ娘トリオが、虎の威を借りずに実力で表彰台のてっぺんを狙う。
◆橋本団長の死ぬ気めも 橋本団長は88年カルガリー五輪で500、1000、1500、3000、5000メートルの全5レースすべてで日本新を出し入賞。最後のレースとなった5000メートル(6位)ではゴール後、力尽きて前のめりに倒れ、自力で立ち上がれずスタッフに抱え起こされて立つのがやっと。当時の監督が「貧血状態で両腕はひじから先が氷のように冷たくなっていた」と証言するほど死力を尽くした。
◆金メダルへの道 日本が準決勝で対戦するポーランドは、今大会は個人種目で入賞者が一人もいない雑草集団。トリノ五輪銅のロシアを破る大番狂わせを起こしたが、順当なら十分勝てる相手だ。決勝の対戦チームは、前回金のドイツが予想される。3000メートル、5000メートルで銀2個獲得のベッカート、ソルトレークシティー大会1500メートル金の古参・フリージンガーら総合力は今大会で一番。ポーランドに負けた場合、米国との3位決定戦が予想されるが、まず負ける相手ではない。