袋がけされたビワの木の間を縫って山道を歩くこと1時間。そびえる棚田に息をのむ。石積みには大石が交じり、城壁と見まがう迫力。気の遠くなるような積み重ねに、島人の粘り強さと子孫への思いを知る▲
先ごろ山口県の祝島を訪ねた。上関原発建設予定地から4キロ沖の周防灘に浮かぶ。眼下に絶え間なく船が行き交う、交通の要所。水平線上に佐田岬半島の影が連なり、夜には伊方の町の光が見えるという▲
循環農業を試みる農園に向かった。放し飼いの豚が集まってくる。雑草を食べ、鼻先で土を掘り起こす。休耕地を復活させた働き者だ。フンは肥料になり、最後は良質の肉を提供する▲
宿では新鮮なタイの刺し身やメバルの煮付けをいただいた。周辺海域は魚の宝庫。自然の恵みはかけがえのない財産だ。だからこそ、島の人の多くが原発建設に反対してきた。予定地は漁港の対岸。埋め立ては死活問題だ▲
考え方はシンプルなんです。島の男性が言う。海の生物をはぐくむ藻場を守りたい。子どもたちに安心なものを食べさせたい。だから海は売らない―▲
お年寄りを筆頭によく働き、集う。活力にあふれる島だ。引きつけられ、訪れる人が後を絶たない。観光ではなく作業の手伝いに来る若者。希望して転入してきた小学生も。「足るを知る」生活で自立を目指す島には、お金に換えられない魅力がある。