那須烏山市月次の同市職員、小峯洋一さん(44)が中心となった「南那須自然観察会」が、2005年から里山の湿地再生活動に取り組んでいる。人の手が加わらなくなると消滅してしまう湿地を、草刈りなどの活動で復活させ、湿地特有の植物や爬虫(はちゅう)類などを呼び戻す。湿地は多様な動植物のすみかとなり、子どもたちの環境学習の場にもなる。小峯さんは「自然の大切さを感じた原点を、未来の子どもたちのためにも守りたい」と話す。
小峯さんは埼玉県所沢市出身。宇都宮大卒業後の1991年に旧南那須町(現・那須烏山市)職員になり、地域住民らで「南那須自然観察会」を設立して自然保護活動を続けてきた。
70年代、所沢の里山は映画「となりのトトロ」のモデルにもなった自然豊かな場所で、湿地が広がり、毎日昆虫図鑑を持ち歩き自然に親しんだ。ところが、土地開発の影響などで次第に消滅。「未来に残したい」との願いが原動力となった。
湿地保全の基準を定めているラムサール条約によると、湿地とは自然、人工の沼沢地、泥炭地で、低潮時の水深が6メートルを超えない海域も含み、周辺に水草や野草など様々な植物帯を持つ。しかし、河川の氾濫(はんらん)が減少した現代では、雑草の除去など手入れをしないと乾燥して自然消滅してしまう。日本有数の湿地、群馬県の尾瀬ヶ原でも近年水位が低下、土壌流出が深刻という。
小峯さんが取り組むのは人工、天然を問わず水分の確保ができ、多様な生物が生育していた場所。05年7月、同市八ヶ代の山に囲まれた元田んぼの土地約2900平方メートルを200万円で購入した。2年間に月1、2回、一面に背丈以上に伸びた藪を引き抜くなどして除去。その後3年間で地面からしみ出す水分と、池から流れる水を土のうなどで食い止めた。最初はヨシやクズなどが目立った草地だったが、07年頃からヤノネグサやイモリなど、湿地帯特有の動植物が見られるようになった。環境を“操作”する難しさに向き合いながら、活動は実を結びつつある。
県野鳥の会の遠藤孝一副支部長は、小峯さんの環境再生活動を「今後各地で行われる類似の活動のよい見本になる」と評価する。
活動には今後、子どもたちも加えていく考え。「自分が出来るのはせいぜいあと20、30年。その後も、意志を引き継いでもらいたい」と、県内全域で活動が広がることを願っている。
(2010年7月27日 読売新聞)