農地漂流 草刈り年1回で耕作地 農水省、放棄と認めず

9月30日2時31分配信 毎日新聞

 さいたま市岩槻区で10年以上も耕作されていない37ヘクタールの農地が、農林水産省の統計「農業センサス」では耕作放棄地に含まれていないことが分かった。年1回草刈りをしていることが理由。農水省は耕作放棄地対策を検討するための実態調査を進めているが、そこでも岩槻のケースは耕作放棄地としない予定という。専門家は「センサスは耕作放棄地の実態を反映していない」と批判している。

 この農地は東京ドーム8個分の広さで、今月中旬、周辺の田んぼで稲刈りが進む中、濃い緑の雑草が生い茂っていた。登記簿などによると約35年前、地元の不動産業者が農家に売買代金を支払い、所有権移転を仮登記した。何度か転売され、現在は大手ゼネコンの鹿島(東京都港区)などが仮登記している。土地区画整理事業実施へ向けて設立された組合が毎秋、草刈りをしているが、ほとんど耕作していない。

 不動産業者に約30アールを売った男性(82)は、業者に「きれいに耕された土地だと、なかなか転用許可が下りないから」と荒れ地にしておくように言われたという。約35アールを売った男性(75)も「今この土地を売ると言われても、耕作する農家はいない」と話す。

 年1回の草刈りだけでは、草が生い茂って見通しが悪く、不法投棄やぼやが絶えない状態が続く。鹿島は「土地区画整理事業の可能性を模索し、できない場合は農地としての活用を含めて検討する予定」と説明する。

 一方、さいたま市農業委員会は「管理されている農地で、少し休ませている状態」と話し、耕作放棄地とは判断していないという。農水省も「所有者がおり、年に1回草刈りをしている場合は、将来農地として使える状態に保全管理ができていると言える。耕作放棄地には含めない」と釈明する。

 センサスによると、05年の耕作農地面積は344万6770ヘクタールで00年より28万7518ヘクタール減った。だが、05年の耕作放棄地(38万6000ヘクタール)は00年比4万3000ヘクタール増にとどまり、耕作面積の減少幅と大きく食い違う。

 センサスは農業の最も基本的な統計で、政策立案の基礎になっている。農地問題に詳しい小田切徳美・明治大教授は「センサスは、耕作放棄が進んで原野化した農地は耕作放棄地に含めないなど、耕作放棄地の実態を反映していない」と指摘する。【田村彰子】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA