8月5日7時57分配信 産経新聞
戦争体験者がその記憶をつづった「孫たちへの証言第22集」(新風書房)が今年も出版された。戦争の悲惨さ愚かさを伝える体験80編が掲載されている。一方で高齢化から風化する記憶への危機感もあり、同社では「これからも活字で残していきたい」としている。
社長の福山琢磨さん(75)は「ひとつひとつの体験は、戦争の一場面で戦局を揺るがすようなものでないが、集めることで実像や悲惨さを浮き彫りにできる」と出版の目的を話す。22年目の今年は全国から909編の証言が寄せられ、その中から80編を掲載した。
終戦時15歳だった大阪府豊中市の森嘉樹さん(79)は、ソ連軍の侵攻でチチハルから新京(長春)に逃れ1年近く難民生活を送った。栄養失調で次々と人が亡くなるが、厳寒期は土が凍り遺体を埋められず、仮の墓とした防空壕(ごう)は遺体でいっぱいになったという。
北九州市の加藤昭さん(81)は昭和19年6月、小倉陸軍造兵廠で勤務中に米軍の空襲を受け、土砂で生き埋めになった。鼻血と土砂の重みで息ができず意識を失いかけたとき、うめき声を聞いた人たちに助け出された。この造兵廠だけで八十数人が犠牲になったといい、文末には「平和のありがたさを感謝し冥福を祈るこのごろです」と記されている。
近年、体験者の高齢化で応募が減っていたが、今回は関東地方の新聞で活動が紹介されたことから一気に応募が増えたという。「戦後64年たっても、戦争の記憶を伝えたいと思っている方が多いことを改めて感じた」と福山さん。
一方で、記憶の風化に危機感を募らせる。寄せられた文章にはあいまいな部分も多く、編集作業では、体験者に問い合わせ、できるだけ記憶を呼び起こしてもらい時期や地名を具体的に記述した。福山さんは「本には、体験者しか語れない戦争の現実が詰まっている。これからも、記憶を風化させないためにも活字で残したい」と話している。
B6判1365円。問い合わせは新風書房(電)06・6768・4600。