厚木市及川の荻野川に架かる「上使橋(じょうつかいばし)」の一帯で、両岸約400メートルにわたって約3000株の食用菊が咲き誇っている。以前は雑草や雑木が生い茂っていたが、近くに住む萩原保さん(67)が7年がかりで刈り取り、ヒガンバナやキクを植えて整備した。一帯は今では「花の散歩道」になり、川へのゴミ投棄も激減。住民たちは、たった一人で水辺を生まれ変わらせた萩原さんのパワーに驚き、感謝している。
萩原さんは1998年に食肉店の経営から引退した後、自宅前の川を眺めるうちに「何とかきれいにできないか」と考えるようになった。当時は、歩道から川面にかけてカヤやタケなどが生い茂り、川沿いの歩道は通れない場所もあった。川に自転車が不法投棄されるなど、一帯の荒廃ぶりは地域の悩みの種だった。
萩原さんが毎日、カマを手に草刈りに出かけるようになったのは2002年頃。3年がかりで雑草や雑木を取り払った後、今度は「多くの人が散歩に来てくれるような場所にしよう」という新たな目標を立てた。
川を管理する県や、両岸の歩道を管理する厚木市に出向き、「背の低い花なら植えてもよい」との承諾を得て、自宅の畑で育てたヒガンバナや食用菊の移植に取りかかった。
「最初は不審がられたり、家族にも『また行くの』と嫌がられたりした」が、作業で約20足の靴を履きつぶした昨年頃から、一帯は見違えるように美しくなった。今年秋には、最初にヒガンバナ、11月初めからは菊が開花。口コミで評判を聞いた市民らが訪れるようになった。
今年3月には、自発的に集まった約20人の住民が「荻野川を自然の花で飾る会」を結成。月1回、会員たちが萩原さんの作業を手伝っている。
近くに住む天利保代さん(68)は「とても一人でできることではなく、住民みんなが感謝している。多くの人にキクの花を見にきてもらい、萩原さんの努力を知ってほしい」と話す。
萩原さんは「秋の花だけでなく、これからはシバザクラなども植え、1年を通じた花の道にしたい」と、今も毎日、花の手入れに取り組んでいる。
(2009年11月25日 読売新聞)