上田夫妻コレクション 練馬区立美術館のゲンダイビジュツ「道(ドウ?)」展

■収集家の温かい眼差し

 手のひらに入ってしまう小さな木彫から1つの壁面を占有する巨大な絵画…。いま練馬区立美術館(東京都練馬区貫井)で「ゲンダイビジュツ『道(ドウ?)』」展が開かれている。展示されているのは、ある夫妻が集めた現代美術作品だ。展示作品からは、美術や芸術家を愛してやまないコレクターの温かい眼差(まなざ)しとコレクションのあり方が見えてくるようだ。(渋沢和彦)

 展示室の床のカーペットが正方形に剥(は)がされ、花を散らした木彫のチューリップが置かれている。さりげなく、注意しないと見逃してしまいそうだ。壁面には小さな名も知れない草の木彫が掛けられている。「雑草」という作品タイトルがそえられている。売れっ子アーティスト、須田悦弘(よしひろ)(昭和44年生まれ)の作品だ。

 別の展示室に入ると白い半球体のオブジェのようなものが置かれる。舟越直木(昭和28年生まれ)の「Moon」という粋なタイトルが付けられている石膏(せっこう)を素材にした作品。作品名から月を連想してしまうが、シンプルでストイックな造形は、見る者を引き寄せる。兄の舟越桂(昭和26年生まれ)が華々しく活躍する一方、個展の度に手応えのある発表をしている実力のある彫刻家だ。

 さらに別の展示室は、巨大な絵画に占有されている。縦2メートル、横5メートルを超える斉藤典彦(昭和32年生まれ)の大作などが迫ってくる。

 展示されているのは現在、その実力が評価されている作家ばかり。展示作品は、神奈川県藤沢市に住む上田國昭・克子夫妻がコレクションしたものだ。國昭氏(70)は元都立高校の教師。40代後半から都内の画廊回りを始め、ほとんど注目されていない新人作家の作品を自分の目を信じて買い始めた。作家と親しくなっても「次の作家を養うことがきる」とギャラリーを通して作品を購入。

 現在までに360点を超える作品を集めた。巨大作品も多いため自宅以外に1軒家を購入して保管。しかも室温調整もするほどの徹底ぶりだ。

 コレクターは数多いが、國昭氏は単なるコレクターではない。「多くの人に見ていただきたい」と、これまで約220点以上を国公立美術館に寄贈してきた。

 練馬区立美術館にも40点の寄贈をした。本展で展示された42点のうち37点は上田さんからの寄贈作品。不景気で公立美術館の予算は削られる一方で、こうした現代美術収集家の活動は大きな力となると同時に、美術品収集の意味を問いかけているのではないだろうか。3月28日まで。月曜休館(22日は開館し23日は休館)。一般500円。

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