「見守り役」募る■「無事」のバラ
独り暮らしの人が、誰にもみとられずに病気や衰弱で亡くなる孤独死が年々増えている。独居高齢者が多い京都では、問題は特に深刻だ。予防の鍵は地域のコミュニケーションにあるとして、行政や地域による孤独死防止の取り組みが進む。
西京区の民家で昨年11月、男性の遺体が見つかった。西京署の調べで、遺体はこの家に一人で住む60代の無職男性だと分かった。2006年10月ごろ、病気で亡くなったとみられるという。男性には埼玉県に親族がいたが、連絡を取っておらず、男性がこの家に住んでいることも知らなかった。玄関の前には雑草が生い茂り、近所の住人は「空き家だと思っていた」と口をそろえる。親族から家の処分を依頼されて訪問した不動産業者が、畳の上に横たわる遺体を発見した。
京都市や乙訓地域を中心に不用品処分や遺品整理を請け負うアトラス京都店(向日市)の担当者は、約3年前に京都市内のアパートを訪れたときのことが印象に残っている。独り暮らしの70代の男性が亡くなって発見された。室内は、洗濯して取り込んだままの衣類などで散らかっていたという。男性が寝ていた布団や畳は排泄(はいせつ)物にまみれ、食品は腐ってにおいを放っていた。「汚れ方がひどく、家に上がるのにちゅうちょしてしまった」と振り返る。
府警捜査1課によると、昨年1年間に遺体で見つかった府内の独居高齢者は615人。男女ほぼ半々で、約9割は病死だった。10年前の1999年は363人、2008年は593人と、年々増加している。40~64歳でも昨年、302人の独居者が遺体で見つかっている。こちらは約8割が男性だ。
05年の国勢調査によると、府内の独居高齢者は約9万2千人。うち約6万1千人は京都市内に住んでいる。全世帯に占める独居高齢者世帯の割合は、府全体で8・7%、京都市で9・5%。ともに全国平均の7・9%を上回る。政令指定都市では大阪市(12・0%)、神戸市(11・0%)、北九州市(同)に次ぐ。
地域内のコミュニケーションで孤独死を防ぐ取り組みも進む。
京都市長寿福祉課は、昨年10月から「一人暮らしお年寄り見守りサポーター」を募集している。高齢者に目を配り、支援が必要だと感じた場合に地域包括支援センターに連絡するボランティアだ。市内で生活している人であれば誰でも申し込みできる。昨年末時点で約740人から申し込みがあり、同課は3年間で1万人を目指す方針だ。「向こう三軒両隣という言葉がある。目の届く範囲で目配りをしてほしい」と担当者。
下京区亀屋町では、玄関先に置いた造花の赤いバラで高齢者の安否を確認している。住人が朝、玄関先に出し、夜に取り込む。出しっぱなしや出ない日が続いたら、異常事態だ。他の町内で孤独死が起きたことを耳にして、2007年に始めた。
妻と2人で暮らす桑原眞一さん(88)は、「年をとるとあまり外に出なくなるが、バラが動くきっかけになり、元気になるし、町も和やかになる」と話す。
「孤独死を防ぐのに、いちばん大切なのはコミュニケーション」と同町の住人で、有隣学区社会福祉協議会会長の桑垣千加子さん(69)は話す。「高齢者も自分から近所の人に声を掛けるなど、『可愛らしいお年寄り』を目指すことも必要」と指摘する。