<ほぼ週刊>
雨が上がった11日、火曜日の朝。周南市の中須北地区は静けさに包まれていた。5集落230人ほどで守る棚田の里も、平日は勤めに出る家が多く、田んぼに人影はほとんどない。1アールの棚田オーナーになった記者は、この日が農作業の初日だった。
午前9時すぎに作業スタート。草刈り機を初めて操り、あぜに好き放題に茂った雑草をバッサバッサと刈っていく。機械の重みで二の腕が時折ピクピクするものの、なかなか順調。あぜの穴から出てくるサワガニとたわむれながら、30分ほどでやり終えた。
「けっこう早く終わるかも」。淡い期待を抱いたが、やはり甘かった。田んぼの水漏れを防ぐため、あぜの内側を泥で塗り固める第一関門「あぜ塗り」。それはまさに泥との格闘……。
受け入れ農家の佐伯妙子さん(54)の母ヤエノさん(77)がお手本を見せてくれるが、まず鍬(くわ)が思い通りに使えない。どうしても泥を多くすくってしまい、その重さで無駄に体力を消耗してしまう。ただでさえ調子の悪い腰にくる。だんだん息が上がる。「た・す・け・て。S・O・S…」。そんな心の叫びも、向かいのあぜで見つめるヤエノさんには届かない。
とはいえ、ところどころで助っ人に入るヤエノさんは頼もしい。泥を平らにのばす鍬の縁(へり)の使い方がソフトタッチで左官職人のよう。ほれぼれするぐらいにうまい。こっちは子どもの泥んこ遊びに毛の生えたぐらい。それでも「あぜ塗りは下手じゃけー」と言うから恐ろしい。
たかだか20メートルほどを塗り固めるのに、ほぼぶっ通しでも、正午すぎまで2時間ほどかかってしまった。今は機械化が進み、トラクターに付けるタイプが50万円前後で売られている。しかし、棚田のように小さな田んぼは使えない場所もあり、今でも手作業をすることがあるという。
その夜、風呂上がりに張った湿布は13枚。スースーして寝付けないことしきりだった。【内田久光】
〔山口東版〕