ごみ処分場問題など環境破壊に警鐘を鳴らしてきた絵本作家田島(たしま)征三さん(70)が手すきの和紙に彩色し、木の実や自然の素材で制作した作品12点などの展示会が7月4日まで、三鷹市下連雀4のぎゃらりー由芽(ゆめ)で開かれている。「生きていた記憶を持つ物質が人の心に強い印象を与えるのでは」と考える田島さんの独特の作品世界が広がっている。
スペイン・バルセロナのミカ美術館の庭で拾った木の実でつくった「手ばなしたプラン」、石垣島の雑草の花をコラージュした「みんなで歌っているよ」、モクレンのつぼみの殻による「失(な)くした手紙 破った手紙」――作品につけられた題名にイメージが膨らむ。
ドングリの実の下部を覆う「ハカマ」や、エゴ、ユリノキ、タイサンボクといった木の実のほか、流木も活用。未成熟の木の実をすぐ干して柿渋につけてカビや虫を防ぎ、ニカワで張り付けたという。
田島さんは、多摩美術大学卒業後、1960年代後半から「ちからたろう」で世界絵本原画展金のりんご賞、「とべバッタ」で絵本にっぽん賞を受賞するなど人気作家として活躍。90年代、自給自足を目指してヤギやチャボを飼い畑を耕す生活をしていた日の出町でゴミ処分場建設反対運動にも参加。森の中で見つけた木の実などを素材とした制作に取り組み始めた。
たまたま検査で見つかった胃がんで大手術をした後の98年4月、30年近く住んだ日の出町から伊豆に療養を兼ねて移住。がんの克服については、「近くに群生するコゴミを毎日食べていたので免疫力が高まったと思っている」と笑う。
今年2月、ドイツで聴いたモダンジャズコンサートで今回の作品群の着想を得た、という。一方、田島さんの4畳半もの大作でコナラのハカマを使った「地上の星座」、モクレンの実による「自爆する男」は、パリの市立美術館で来年1月まで展示されている。
「由芽」とは、闘病中の98年9月に個展を開催して以来の縁が続く。田島さんの新作絵本「かまきりのカマーくんといなごのオヤツちゃん」(大日本図書)なども展示販売。正午~午後7時(木曜休)。問い合わせは由芽((電)0422・47・5241)。
(2010年6月23日 読売新聞)