【特報 追う】海水を肥料にコメ作り 塩分を調整 「甘い」「粘りある」高評価

9月2日7時50分配信 産経新聞

 宮城県登米市の農業生産法人「板倉農産」が、海水やカキ殻を利用したコメづくりに取り組んでいる。農業では「塩害」という言葉があり、農家にとって海水は「農作物を枯らす」というマイナスイメージだが、海水に含まれるマグネシウムなどのミネラルに着目し、肥料にしている。またカキ殻は水産業者にとっては処分に困る“厄介者”だが、独特の処理を施し病害虫除けとして活用。同法人の「海水米」はデビューから今年で3年目。ミネラルの働きで「おいしい」と好評で、引き合いが増えている。また農薬や化学肥料を減らす環境保全型農業が叫ばれる中、「環境に優しい農業」としても注目されている。(石崎慶一)

 「昔は海藻を畑に入れて肥料にしていた」。「板倉農産」社長の阿部善文さん(41)がコメづくりに「海水」を利用するきっかけとなったのは、4年前に取引先の海産物卸売業者から聞いたこの言葉だった。

 宮城県北に位置するコメどころ登米市。阿部さんはここで、アイガモを田んぼに放って雑草や害虫を食べさせ、そのフンを肥料にする「アイガモ農法」や稲ワラやモミ殻などを田んぼに返す循環型農業を実践。農薬や化学肥料に依存しない農法に取り組んできた。

 そうした中で「海藻を畑の肥料」の話にはピンと来るものがあった。関係資料を調べて、富山県で水稲栽培に海水(海洋深層水)を活用する試みを知り、現地を視察。有効性を確信し、“海水農法”導入を決めた。「環境負荷が少ないことも決め手になった」と阿部さん。海から採った水が、役目を終えて排水路、河川を通りまた海へ返る「循環型」の図式が自らの理想と合致していた。

 平成18年作付けのコメから海水農法を導入。海水の手配では、阿部さんに「海藻を畑の肥料」の話を聞かせた海産物卸売業者の「三陸オーシャン」(仙台市泉区)が協力。宮城県石巻市の石巻湾の海水をくみ上げることになった。「海水を田んぼに入れると言ったら石巻の人にはびっくりされた」と阿部さん。それだけ海沿いでは塩害は切実な問題だった。

 海水に含まれる塩分が作物に有害だが、阿部さんは塩害の研究データなどにあたり「海水の塩分濃度3%を1%に下げれば害はない」と推測。「ひとめぼれ」を作付けした30アールの田んぼに夏、海水の“原液”を農業用水で薄めるように流し込んだ。塩害はなく、その年は10アールあたり 480キロの収量があった。海水米は「三陸の煌(きら)めき」と名付けられ、三陸オーシャンなどを通じ「5キロ入り、3150円」で販売が始まった。

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 海水の“効能”は「食味」に現れた。コメのおいしさを数値化する食味計で計ったところ、人気の新潟・魚沼産コシヒカリに遜色(そんしょく)のない数値を示し、試食会でも「甘い」「粘りがある」と高評価だった。板倉農産はホームページで試食を呼びかけ、感想を求めたところ、「今までのひとめぼれと比べ、粒がしっかりして弾力がある」などの声が寄せられた。

 海水に含まれるマグネシウムには食味をアップさせる働きがあるとされるが、単にマグネシウムを補給するのであれば、化学肥料や海水から取った農業用のにがりもある。だが化学肥料はポリシーに反し、農業用にがりは高価。「コメの値段が上がらず、燃料が高騰する中、コストを抑えなければコメ作りはやっていけない。地元の資源を有効に使うところに意義がある」と阿部さん。

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 病害虫対策ではカキの産地、石巻で処理に困っているカキ殻を活用した。自家で農業資材を作るときの副産物の木酢液でカキ殻を溶かして散布。害虫による被害は減少し、効果は上々だった。カキ殻の世話もした三陸オーシャンの木村達男社長(57)は「もともと循環型農業に関心があった。これからも協力していきたい」と語る。

 板倉農産は昨年から作付面積を2倍に拡大。海水の流入時期を田んぼごとにずらして、稔り具合や食味を比較している。これまで毎年田んぼを変えて作付けしてきたが、塩害を検証するため田んぼを固定することも検討していくという。「こうした新しい取り組みは継続していくことが大切で、その中で消費者の評価が出てくると思う」。阿部さんの真剣なまなざしが“穂波”に広がった。

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 ■海水を利用した農業 九州大学大学院の北野雅治教授(農業気象学)が発表した「農業における塩の利用-美味しい野菜づくり」によると、品質向上のために農作物に海水を活用している例は、千葉県の長ネギ、茨城県のキャベツなど。また江戸時代から海水や海藻が農業に使われてきた。海水をくみ取ってムギ畑の肥料にする▽海藻はすべての作物に効く▽ミカンの木の根元に海水をかけるとよい-などの農法が記録としてある。

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