7月2日7時57分配信 産経新聞
植物の病気を診断してくれる「植物病院」が、東京大学にある。草花に関する相談は園芸店や樹木医などが担うが、対象の限界や料金が高めなことが多い。植物病院の基本料金はワンコインの500円。庭木や観葉植物などどんな草花でも診断してくれる。スタッフの「植物医師」養成も本格化し、将来は医師や獣医と同様に“植物のお医者さん”が身近な存在になるかもしれない。(小川真由美)
◆治療は行わないが…
「東京大学植物病院」は昨年10月、東京・本郷の東大農学部植物医科学研究室にオープンした。利用料金は1植物1症例で500円。診断書を希望すると1000円、顕微鏡観察を行うと500円がそれぞれ別料金でかかる。
利用者は診察してもらいたい草花を持参し、異常の発生部位や奇形、腐敗、生育不良などの状態について問診を受ける。人や動物の病院と違い、治療は行わないが、枯れた原因や害虫駆除の方法、適切な農薬や肥料の管理情報を得ることができる。庭木など運搬が難しいものは枝など一部を郵送し、診てもらうことも可能だ。
これまで、トマトなどナス科の野菜に多い「青枯病」や、庭木のベニカナメモチの葉に斑点が出る「ごま色斑点病」などの病害が持ち込まれた。ウイルスや細菌、カビなどによる病害だけでなく、庭に散布した除草剤が隣接するツツジに付着して木が枯れるなどの薬害や、水の与えすぎによるものなど“身近な病”も少なくないという。
難波成任農学部教授は「病院のスタッフは病理学、害虫学、農薬学など植物の病害に関する知識を勉強している。枯れてしまい、どうしていいか分からない草花があったらあきらめないで持ってきてほしい」と気軽な来院を呼びかける。
◆食の安全にも必要
植物に関する相談機関は、生産者向けでは各自治体の病害虫防疫所が有名だ。一般向けとしては、日本園芸協会(東京都渋谷区)が30年以上実施している有料相談(年間6116円)や日本樹木医会(文京区)が全国に約1600人いる樹木医を紹介するものがある。
植物にまつわる資格は緑の安全管理士や造園士、生活園芸士など複数あるが、大半が専門家向けだったり、対象とする植物が限られたりする。
これに対し、「植物医師」と呼ばれるのが、国家資格の「植物保護士」だ。法政大学では、この植物医師の育成を強化している。昨年4月には東京・小金井キャンパスの生命科学部内に「植物医科学専修」を新設。現在、1、2年生計150人が在籍しており、今後10年間で100人程度の植物保護士を誕生させる狙いだ。同大2年の中本哲さん(19)は「勉強を始めて、自宅や公園の草花も気になるようになった。将来は環境や農業など知識を生かして働きたい」と意気込みをみせる。
同学科を担当する西尾健教授は「屋上緑化や家庭菜園が浸透し、食の安心安全への関心が高い中、草花、野菜、樹木など植物の知識は今後さらに必要とされる。近い将来、植物医師が生産者だけでなく、家族の食事を作る主婦や園芸好きの人にも身近な存在になれば」と期待する。
■植物保護士 文部科学省が、科学技術に関する高度な専門知識を備えた技術者を認定する「技術士」の一つ。平成16年に「農業および蚕糸」部門から独立して新設された。病害虫防除や雑草防除、発生予察、農薬その他の植物保護に関する事項における技術士。一般に技術士は「電気電子」「建築」など計21部門あり、今年3月末までの登録者総数は6万5483人で、第1次試験のみの合格者である「技術士補」の登録者総数は2万3203人。このうち、植物保護士の登録者数は昨年末で、13人にとどまっている。